長野県といえば地域医療の先進地域で、現在の健康診断のモデルとなった一斉検診を全国に先駆けて導入したエリアである。それならば、長野県の諏訪中央病院名誉院長でもある鎌田實医師も、検査に熱心なのかといえば、『検査なんか嫌いだ』という著書をこのたび上梓。最新刊のタイトルと同じく、意味のない検査やエビデンスが薄い治療はしたくないという。なぜ、不要な検査があると考えるのか、鎌田医師が解説する。
* * *
永六輔さんは有名な検査嫌いだった。周囲からすすめられて一泊の入院ドックを受けることにしたものの、いろいろな検査を次から次と拒否し続けた。その結果、出てきたデータは体重と身長だけ。そんな有名な笑い話がある。
ぼくは、永さんほどの検査嫌いではないが、意味のない検査やエビデンスの薄い不要な治療はしたくないと思っている。
2010年ごろから、アメリカの50の医学会が賛同し、「Choosing Wisely」(賢明な検査や治療法を選ぼう)という運動が始まった。日本でも、Choosing Wisely Japanが立ち上がっている。
アメリカでの運動で指摘されている検査や治療について、ぼくが気になったものを紹介しよう。
「70歳を超える高齢者のコレステロールは下げてはいけない。コレステロール値が低いほうが死亡率が高い」
この指摘には賛成である。日本でもコレステロール値が少し高い人のほうが長生きしているというデータがある。
コレステロールに関しては、日本も方向性が変わりだしている。厚生労働省では、健康な成人の、食事で摂取する一日のコレステロールの基準値を撤廃した。食事からコレステロールを摂っても、血液中のコレステロール値はあまり関係しないことがわかったからだ。「卵は一日一個まで」と目くじらを立てなくてもよくなった。寝たきりの原因になる、筋肉の虚弱という意味の「フレイル」という言葉も使われ出した。肉をもっと食べたほうがいいのだ。
こうしたコレステロールとのつき合い方が変わっていくなかで、高齢者は脂質異常の検査に一喜一憂しなくていいことになる。検査も頻回にする必要もなくなる。