映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、2017年1月21日に脳リンパ腫で亡くなった、故・松方弘樹さんが語った、日本の映画やドラマなどの現状についての言葉をお届けする。
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先日亡くなった松方弘樹には、本連載だけでなく本誌での対談にもご登場いただいた。先週に引き続き、今回はその時の模様を振り返っていきたい。
対談の終盤は主に日本の映画や時代劇の現状についての話題になった。その際、松方はさまざまな視点で昔からの状況の変化を語り、そして嘆いていた。中でも、アクの強い悪役俳優が不在になっていることに触れ、それが出てこない背景を語ってくださっている。
「俳優がみんな、いい人になっちゃってる。テレビに出て、好々爺になっちゃった。まあ、生活もあるでしょうし。今は、俳優だけじゃ飯が食えないんです。
映画の本数もそんなに多くないですから。それで仇役でイイ味がある役者でも、バラエティ番組に出ると悪としてのリアリティが無くなってしまう。そうなると、プロデューサーとしてもキャスティングしにくくなる。テレビのバラエティ番組での土俵は広がっても、アクターという土俵は縮まっていきます。だから、難しいところです。石橋の蓮ちゃん(蓮司)くらいの域のバイプレーヤーは、もうおらんですよ。いい俳優はどんどん少なくなっていく。
僕も悪役やりたいですよ。たしかに、主役よりも敵役や脇役の方が芝居は面白くできるんです。そういうのをやらせてくれるといいんだけどね──。
ところが、テレビだと70歳といったらクソジジイと思われて、使わないんですよ。僕のやりたい役はみんな、50くらいの人がやっています。滑舌が良かろうが悪かろうが、体が健康だろうが病気だろうが、この歳になったら、もうキャスティングの候補ですらない」
松方が終始指摘していたのは、俳優そのものの資質ではなく、映画、芸能界のシステムのあり方についての問題だった。現在のやり方ではいい役者は育たないし、優れた映画も生まれない。松方の言葉は、激しかった。