テレビ朝日で放映予定だったドラマのタイトルが秋田県の抗議で変更になった。一方、かつて村上春樹氏の小説の一部を抗議した自治体は炎上したこともある。両者の違いはなにか。大人力コラムニストの石原壮一郎氏が「大人の抗議力」を考える。
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最初に「秋田県抗議でテレ朝がタイトル変更」というニュースを見たときは、「ああ、どうせまたしょうもないイチャモンを……」と思っていたんですが、そうではありませんでした。早とちりして申し訳ありません。よく読むと「なるほど、それは怒るのはもっともだ」という話でした。
テレビ朝日が4月から「サヨナラ、きりたんぽ」というタイトルの連続ドラマを放送することを発表。ところが、この「きりたんぽ」は、あの秋田の郷土料理のことではありませんでした。ドラマは、主人公の女性が自分を裏切った男性の局部を切断するなどして成敗するストーリー。「きりたんぽ」をタイトルにつけたのは、切った男性器をイメージさせることを狙ってのことのようです。
報道によると、ドラマの内容が発表されてから、秋田県庁やきりたんぽと縁が深い鹿角市、大館市、北秋田市の市役所に「下品で不快」などの声がたくさん寄せられたとか。3月7日、県からテレビ朝日に「郷土料理のイメージダウンにつながる」と口頭で抗議したところ、同日中に「タイトルを変更する」という連絡があったそうです。
ほどなくホームページも修正され、現在は「連続ドラマ タイトル未定」となっていて、説明文の中にあった「阿部定」の文字も削除されました。ちなみに、ドラマの企画・原作は秋元康氏。男性の局部を切断する(?)主人公を演じるのは「AKB48」の渡辺麻友さん。まゆゆこと渡辺さんも、当初は「私が平成の阿部定!? いままで演じたことのない役柄です! 私自身も大きな挑戦となります」とノリノリでコメントしていました。
秋田県民やきりたんぽ関係者としたら、そりゃ、こんなタイトルはつけてほしくないでしょう。ソウルフードであるきりたんぽを完全に冒涜しているし、これから先、きりたんぽを食べるたびに妙な連想をしてしまいそうです。「きりたんぽ=きり○んぽ」のイメージが全国に広がったら、事あるごとにネタにされたり、AVのひとつも登場したりして、地元やきりたんぽ業界のダメージは計り知れません。
テレビ朝日側の対応の迅速さや秋元康氏という希代の策士(ホメ言葉です)がからんでいることから、もしかしたら最初からこういう展開を狙っていたのではという疑念もふつふつと湧いてきますが、それはさておき、この場合は抗議するのはもっともだし憤りもよくわかります。勝手に正義の味方面や被害者面をして「差別だ!」「不謹慎だ!」「女性蔑視よ!」といきり立つのとは、必然性も説得力も込められた思いの深さも違います。