経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人をピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、金正男氏の長男、キム・ハンソル氏の状況をYouTubeで公開された動画から分析。
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「北朝鮮の人々へ」と題された40秒の動画が、YouTubeにアップされた。そこに映っていたのは、キム・ハンソル氏を名乗る男。マレーシアで殺害されたキム・ジョンナム(金正男)氏の長男である。
動画は脱北者の支援団体を名乗る「チョルリマ民間防衛」のホームページに掲載された。キム氏はこの団体に保護され、今は安全な場所にいるという。ホームページでは人道的な緊急支援に対し、オランダ、中国、アメリカと匿名の国の政府、そしてオランダのエンブレヒツ駐韓大使の名前をあげて感謝の意を示している。
動画の男性については、韓国の情報機関、国家情報院がキム・ハンソル氏本人と断定した。そこで、命懸けとも思える40秒の動画から見えたキム氏の現在の心理状態について分析してみようと思う。
カメラをまっすぐ見据えたキム氏はまず、自分の名前を名乗った。次に「北朝鮮生まれ」と言うまでに、ほんのわずかな間があり、声のトーンが低くなり、こもったように小さくなる。北朝鮮という国への複雑な思いがそこにあるのだろう。
続けて「金一族の一員です」と言うが、彼がここで顔を上げることはなかった。手元のパスポートを提示しようとしたからかもしれない。だが、その一族の出身であることを誇りに思っていれば、普通ならここは顔を上げるところだ。自分の家系や血筋を否定したい気持ちや、一族に誇りを持てないという意識があるのでは…と思う。
「父が殺害された」と話す前、キム氏は自分の左側に顔を向け、視線をそちらに動かした。その視線は左前の一点で止まり、何かをとらえたように思える。続けて「私は母と妹と一緒にいる」と話す前も、左側に顔を向けた。この時も、視線の動きが左前の一点で止まり、誰かと目を合わせたかに思える。
もし左前に誰かがいたとすれば、座っているキム氏の目線の高さから推測して、それほど背の高い人ではないだろう。「父が殺害」「母と妹」という言葉の時に、視線を向けた、しっかりと見たことから考えると、そこにいたのは母か妹の可能性があるのではないだろうか。
だとすれば、この動画は家族の同意のもと、その意思が反映されたものかもしれない。
動画の中では父親の殺害を「数日前」と語っている。一見すると、父親が数日前に殺害されたとは思えないほど、淡々とした表情で冷静に落ち着いて話している。だが、本当にそうだろうか?
感情を隠す最善の方法は、顔の筋肉の動きを抑制すること。つまりできるだけ無表情で淡々と見えるようにすることである。