昨年1月、世界的に権威のある『BMJ(英国医師会雑誌)』という医学雑誌に、「なぜ、がん検診は『命を救う』ことを証明できなかったのか」という論文が掲載された。その中で、「命が延びることを証明できたがん検診は一つもない」という事実が指摘されたのだ。
たとえば、最も効果が確実とされている大腸がん検診(便潜血検査)では、4つの臨床試験を統合した研究で、大腸がんの死亡率が16%低下することが示されている。その一方で、がんだけでなく、あらゆる要因による死亡を含めた「総死亡率」が低下することは証明できていない。
なぜ大腸がん死亡率が減っても、総死亡率は減らないのか。論文の著者らによると、過剰診断によって「ニセがん」(命を奪わない病変)が見つかり、無用な検査や治療を受け、命を縮めてしまう人がいるからだという。
そもそも、がんを早期発見・早期治療することが、患者に必ず幸せをもたらすものなのかも、考える必要がある。
ある程度の自覚症状があってから副作用のある治療や手術を受けた場合は、術後に少し不具合があっても「まぁ、こんなものか」「がんを治療したのだから、これくらいは仕方ない」と割り切りやすい。しかし、検診で発見された早期がんは、健康な状態から治療を受けるため、少しでも体に悪いことが起きると、その害がどうしても際立ってしまう。
EBM(科学的根拠に基づく医療)の実践家として知られる武蔵国分寺公園クリニック院長の名郷直樹氏は、「がんは早期で見つければ見つけるほどメリットを実感しにくく、失うものも大きくなる」と指摘する。