3月6日、日経新聞は〈大西社長辞任へ 三越伊勢丹HD〉と報じたが、大西洋・社長(61)は辞任報道が出た当日にも丸川珠代・五輪相との会合に予定通りに出席していただけに、一部の経営幹部を除けば「間もなく社長を辞める」と想像した社員は皆無に近かったようだ。
日経の第一報の翌日(7日)、三越伊勢丹は取締役会で「3月末での大西社長の辞任」を決定し、後任に杉江俊彦・専務が昇格することも合わせて発表した。“後任社長未定”の異常事態は1日で解消されたとはいえ、“密なるを以て善しとする”を鉄則とする企業トップ人事が事前に漏れていたことで、社内外の動揺は尾を引きそうだ。
「取締役会の決議前に日経が書いたということは、社内の誰かが“社長辞任確実”という情報をリークしたからと想像できます。大西氏の辞任を既成事実化して、追い落としを確実にする意図があったと見るのが自然です」(経済誌『経済界』編集局長の関慎夫氏)
さらに続報では石塚邦雄・会長が大西氏を前に「現場が持たない。責任を取って辞めてもらいたい」と迫った場面があったことも伝えられた。
三越伊勢丹HDは、三越百貨店と伊勢丹百貨店の経営統合で2008年に誕生した。その中で大西氏は「伊勢丹メンズ館」を成功に導いた功績が認められ、2009年に53歳の若さで伊勢丹社長に抜擢され、2012年にはHD社長に就任した。
「ミスター百貨店」の異名をとった大西流経営の特徴について、大西氏との共著もある経済ジャーナリスト・内田裕子氏が解説する。
「店舗をテナントに貸す傾向を強めたライバルの 島屋やJフロントリテイリング(大丸・松坂屋)に対し、大西さんは仕入れを充実し、魅力的なオリジナルブランド商品を提供することで百貨店に消費者を取り戻そうとした。矢継ぎ早の改革を打ち出した背景には“このままでは10年後に百貨店はなくなってしまう”という危機感があった。しかし、そうした危機感を社内で共有できないもどかしさも感じていたように思います」