中高年以上の人たちにとって大きな悩みとなっているのがお墓をどうするか、ということだ。少子化や遠距離、はたまた日々の忙しさで、先祖代々の墓を引き継いでいけない人が増え、無縁化した数多の墓が社会問題になっている。そこで改葬先として近年、急速に数を増やし、大きな注目を集める室内墓にスポットを当て“お墓”の今をノンフィクションライターの井上理津子さんが伝える。
* * *
近頃、都内の地下鉄やJRの車中で、都心のお墓の広告がやたら目にとまる。「交通至便」を“売り”にした「室内墓」の広告だ。
代々のお墓の維持に悩む人たちは多い。遠方の出身地にある実家のお墓に参りに行くには時間も費用もかかり、現実問題、難しい。
東京都三鷹市の夫婦(40代)は、夫の父の出身地、茨城県のお墓をたたもうとして菩提寺の住職に「許さん」と叱られ頭をかかえていた。岩手県出身で東京に住む男性(41才)は、父が亡くなった後、祖父や母が入る地元のお墓をたたみ、すべての遺骨を宗派の本山へ改葬(遺骨の引っ越し)した。「お墓は『家』の象徴。“家じまい”してしまって本当にいいか」と長く悩んだ末の結論だった。
雑草・雑木が伸び放題のお墓も少なくない。放置を続けて無縁化を余儀なくさせるか、改葬をするか。持ち主の迷いが見え隠れするが、改葬を考える人たちが決まって口にする希望条件は「住まいの近く」。交通至便な都心の室内墓は、格好の“受け皿”だろうと想像に難くない。
お墓とは土の上に建つもの──そうしたかつての常識はもう古いのか。
今回訪ねたのは、車内広告に見る「高級感あふれる室内墓所」「新宿南口徒歩3分」というキャッチフレーズが強烈な新宿瑠璃光院白蓮華堂。全国紙にも女優・市原悦子さんを起用した全面広告がたびたび出ているので、記憶にある向きも多いかもしれない。
昼夜とも行き来する人たちで大にぎわいの西新宿1丁目交差点にほど近い、細い道に面した、丸みを帯びた白亜の建物だった。
正面から仰ぎ見ると、背後に高層ビルが聳える立地だ。世界的に有名な建築家で京都大学教授の竹山聖(せい)氏の設計という。美術館のようなモダンな外観からは、この中にお墓があるとは到底思えない。