とはいえ〈理解には差分が必要で、差分には単純化が必要〉等々、高野が多用する非小説的な理論の類は、理に走らなければ生き抜けない彼らの疲弊や事の深刻さを突き付ける。
「資本主義のコアは富の蓄積が複利で回ること。資本は国境もまたぐし、分割も自在なんです。一方、1個の個体として生きるしかない我々人間は、資本を選んでいく。どの資本をどう動かしたら、どれだけの価値が付加されるか、というように。でもそんな技術を駆使し、仮に市場で勝っても幸福感は持続しないと、成功者ほど言うんです。
今回のデータセンターの話はデジタル=無限という前提を検証するために書いたし、資本主義自体、人生の一回性に傷ついた人類の発明だと言える。ただ何事もやり過ぎれば限界を招きます。僕自身は、厳しいこの世界で、何が起きてもこれは小説にできるというスタンスで、今は何とか戦えてはいますが」
〈終わらない人生も無いよ。企業もね〉と高野が言うように、〈資本だけは残る〉のだろうか。永遠というのもなかなかに孤独だ。
【プロフィール】かとう・ひでゆき/1983年鳥取県生まれ。東京大学経済学部卒業後、堀紘一会長率いる(株)ドリームインキュベータ(DI)に入社。現在はDIマーケティング社長を務め、ベトナム、タイに赴任。「たぶんベトナムに行って自分を対象化できたのが良かった。以前は立ち止まるのが怖くて、実際は何も見えてなかったんです」。2015年「サバイブ」で第120回文學界新人賞を受賞しデビュー。翌年の「シェア」と本作は2期連続の芥川賞候補に。177cm、71kg。A型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2017年3月24・31日号