だから誤解を恐れずにいえば、一方では現在進行形の夜の世界の女性たちが、当局の取り締まりに反対し「性労働者」を自称し「生存権を守れ!」と叫んで堂々とデモをするのが、韓国の民主化時代なのだ。

 今や慰安婦問題は日本非難の愛国テーマである。その結果、元慰安婦の老女たちを“愛国志士”に仕立て上げ、記念像を各地に建てて国家的な“教育遺産”にしてしまった。そうした臆面の無い発想は民主化によってもたらされた。

 日本大使館や総領事館前の慰安婦像などまさに民主化の産物そのものだ。国際マナー、国際法違反でも「民間がやったことだから」と、政府も自治体も手が出せない。支援団体やマスコミなど世論の反発を恐れて法治ができないのだ。

 韓国では民主化とは「法より民意」である。メディアを挙げて「これが本当の民主主義だ」といって自画自賛している最近の「100万人ロウソク・デモ」も、代議政治無視の「法より民意」の発想である。

 法は秩序だが、民主化は民意優先だから秩序も崩れる。その象徴がソウルの中心部にある「光化門広場」を“占拠”している不法テント村。「セウォル号沈没事故」の犠牲者支援と称し、朴槿恵政権非難を続ける反政府派の座り込みテントだ。これも「民意」への配慮から撤去できない。民主化が韓国社会全体に無法現象を生んでいるのだ。

 もう一つの反日・愛国シンボルである竹島・独島問題は、1965年の日韓国交正常化の際、ある種の棚上げ論として“現状維持”で合意していたのが、民主化による過去否定で韓国は領有権強化という“現状変更”に突っ走ってしまった。

 金泳三政権(1993~1998年)は島に埠頭など大規模施設を増設し、盧武鉉政権(2003~2008年)は島への往来を自由化。島を観光地化し愛国・民族主義感情を盛り上げた。民主化というポピュリズム(大衆迎合主義)が外交的配慮を無視し、日本への対抗意識を煽ることになった。

 以上は、「反日無罪」という韓国社会の日本に対する伝統的(?)な甘えに加え、民主化が政治や外交まで壊してしまった例だ。

●くろだ・かつひろ/1941年生まれ。京都大学卒業。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長を経て産経新聞ソウル駐在客員論説委員。著書に『決定版どうしても“日本離れ”できない韓国』(文春新書)、『韓国はどこへ?』(海竜社刊)など多数。

※SAPIO2017年4月号

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