ネットの言論には、独特の論調がある。思いもよらないことが笑いの種となり、盛り上がることも。たとえば、BPO(放送倫理・番組向上機構)のHPで紹介される事例集は、ネット民にとってネタの宝庫となっている。人権侵害などの深刻な問題を論じる機構が公表する情報が、なぜネタ扱いされるのか。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が解説する。
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俳優・速水もこみちといえば、朝の情報番組『ZIP!』(日本テレビ系)内のコーナー「MOCO’Sキッチン」でオリーブ油を使いすぎることで知られている。ネットではこれはネタと理解されており、速水の半身がオリーブ油の中に沈んでいるコラージュ写真まで存在する。
しかし、この伝統芸に対しBPO(放送倫理・番組向上機構)には「使い過ぎ」「家計に配慮すべき」といった意見が寄せられ、これをBPOは「視聴者のご意見」としてHPで紹介した。これが数々のメディアで報じられたが、ネット雑談界の歴史を踏まえると、2000年代後半以降、BPOのこの「視聴者のご意見」は重要な“ソース”となっていた。
なにせ、あまりにも生真面目な人々が静かな怒りをもって正義の組織・BPOに訴えかけている様が喜劇に感じられ、2ちゃんねる等で笑いの対象となってしまう。
「高齢の父が『プロ野球中継が少ない』と嘆いている」や「地震の現場の報道で、住民はヘルメットをかぶっていないのに、報道陣はかぶっているのはおかしい」などの投稿が厳選され、紹介されているのである。これに対しては、「そこ問題視するところかよwww」などと笑いの対象になる。
BPOでは「※無断転載はお断りします。公表している視聴者の意見について、転載を希望する場合には、事前にBPOにご連絡ください。」と、安易に使わぬよう釘を刺しているが、実際問題としてBPOの「視聴者のご意見」はネット民にとって娯楽を提供するサイトになっている。
また、同様にネット民の重要なソースとなっているのが各地の警察署が発表する「声かけ事案」である。これは警察が怪しい人間の情報を発し、住民へ注意を呼び掛けるものだが、これも状況が分からず文字面だけ見ると、BPOと同様に笑い、ないしは「ここまで不自由な社会になったのか……」と皆で呆れるトピック化している。