どんな大打者、大エースでも開幕戦は特別な緊張感があるというが、それは指揮官も同じだ。名将・野村克也氏がヤクルト監督1年目の1990年の開幕戦、巨人対ヤクルト戦(東京ドーム)の思い出を振り返る──。
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現役時代を南海、ロッテ、西武で27年間、監督としてヤクルト、阪神、楽天で16年間(兼任監督を除く)過ごしたが、やっぱり開幕戦は正月気分だな。開幕戦はあくまで「143分の1」という監督もいるが、最初の1勝は早い方がいい。
相手がエースを出してくる開幕戦は捨てゲームと考え、2戦目にこちらのエースを起用して五分に戻そうというやり方だと、開幕戦に投げたかったエースがヘソを曲げる。だから長いペナントレースを考えるとやりづらい。特に弱いチームが開幕戦に負けると、ずっと負け続けるような気持ちになる。弱いチームにいたことしかないから、勝ちたい気持ちは強かったよ。
ただ、V9時代の巨人は開幕戦に弱かった。それは巨人戦になると燃える選手がいたから。開幕戦が巨人相手だと監督も必ずエースをぶつけ、エースも名誉に感じて投げる。江夏豊が典型だが、昔はそんな選手が多かった。
現役時代は日本シリーズでしか巨人と当たれなかったから、ヤクルトや阪神の監督時代の巨人戦は、とにかく一泡吹かせてやりたかった。監督として記憶に残る開幕戦も巨人戦が多い。
1990年の開幕戦のことは今でも鮮明に覚えている。ヤクルトの監督としてセ・リーグ1年目で、開幕前に「巨人戦は相手が10人いると思った方がいい」と何人もの監督経験者から聞いていた。要は、審判が巨人贔屓という意味。それを痛感した試合だった。