プロ野球の長いシーズンで特別な意味を持つのが「開幕投手」。しかし、1996年の開幕戦で、開幕投手を巡って“世界の王”が激怒するという事件が起こった。
「王さんの逆鱗に触れた試合ですね。もちろん、よく覚えていますよ」
1996年、伊良部秀輝、小宮山悟、ヒルマンの3本柱を差し置いてロッテの開幕投手を務めた園川一美は、苦笑しながら振り返る。試合前日、開幕投手にエース・工藤公康を立てたダイエー・王貞治監督は、相手の予告先発が園川と聞き、報道陣に「開幕投手には“格”というものがあるだろう」と不満をブチまけてスポーツ紙の一面を飾った。
「奇策といわれましたが、仕方がないですね。僕でもそう思います(笑い)。あの時は開幕投手の予定だった伊良部が、故障で登板回避になったんです。開幕3連戦の他のローテーションは動かせず、4番手の僕になった。決まったのは2日前でした。江尻監督は王さんの批判に反論しませんでしたが、伊良部の故障を公表できなかったからだと思います」(園川)
急な登板でかえってプレッシャーはなかったというが、体は思うように動かなかった。味方の大量援護を受けるも5回に2ランを浴び、さらに2死満塁のピンチを招く。勝ち投手の権利を目前に園川は降板した。
「エースなら続投でしょうね。僕もシーズン途中なら投げさせてもらえたかもしれないが、チームとして開幕戦を白星飾りたい思いが強かったのでしょう」(同前)