大団円を迎えたNHKの「連続テレビ小説」、作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が総括した。
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芳根京子さんがヒロインの朝ドラ『べっぴんさん』も本日いよいよ幕を閉じました。タイトルの「ぺっぴん・別品」の意味は、「特別によい品物」。戦後の焼け跡から出発し、昭和20年~60年代という激動の時代を背景に、神戸「キアリス」という子ども服メーカーが服作りにまい進する物語。
スタート当初、主人公・坂東すみれの実在モデルが、子供服メーカー「ファミリア」の創業者・坂野惇子さんと聞いて、期待は大きく膨らみました。激動の時代の中できっちりと企業理念を保ち、質の良い子供服を丁寧に創りあげていく女性創業者の格闘ぶりが、神戸の街の魅力とともに描かれるのだろう、と。
「格別に素晴らしい、愛情のこもった子供服」を世に出し、親と子が服に込められた夢や勇気を分かち合う……多くの視聴者がそんな物語を想像していたのではないでしょうか。
しかも、制作はNHK大阪が担当。『カーネーション』『あさが来た』と、これまで女性主人公×仕事ドラマにおいて輝かしい成功事例を生んできた制作陣。過去の秀作のイメージと重ねつつ、期待を抱いたのはまあ自然なことでしょう。
そして今、半年間のドラマを見終えた印象は……すみれの口ぐせのフレーズそのもの。
「なんか、なんかなー」
一言でいえば、「キアリス」という企業の仕事ぶり、ものづくりへのこだわり、仕事と人、仕事と社会、仕事と街との関係について、描写が極端に少なくてものたりなかった。
ものづくりとは何か、手間のかけ方、独特の企画やデザイン、仕立ての工夫といったことが、オママゴト程度には描かれていたけれど、プロの仕事としてリアルに伝わってこなかったのです。
むしろ印象に残ったのは、家族や仲間内のゴタゴタ。夫婦げんかに嫁姑のグチ、娘の恋愛事件、家出。人が集まればどこにでも生じそうな小エピソードに多くの時間を消費していました。
時代背景についても、そう。敗戦後の廃墟から高度経済成長、経済大国へと成長していくこの時期、資本主義社会の豊かさと歪みが露呈した激動の時代なのに、そのあたりがさっぱり伝わってこない。さすがに途中で時代性を無視するわけにもいかないと考えたのか、唐突に大阪万博の実写映像が入り始めました。
まあ、無いよりはいいのかもしれないけれど、もっと時代が大きく変化していく描写もできたのでは?