競走馬を究極まで仕上げるときに大事なのは、厩舎のチームワークだ。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、厩舎のチームワークはどのようにして培われるのかについて解説する。
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ずっと時代を担ってきた腕利き厩務員が定年を迎えて厩舎を徐々に去っていっても、ほとんどの厩舎はこれまでのやり方を変えませんでした。
私が調教助手として師事した松田国英先生も、ある時期いた厩舎では腕利きの調教助手がいて、あまり乗せてもらえなかったそうです。調教師試験に合格してからは、1年間森秀行厩舎で勉強し、開業後チームとしての厩舎運営を始めました。私も3年間、チームの一員としてみっちりと鍛えられました。
1人の腕利きよりも、5人の平均的な厩務員。調教師が思い切ったリーダーシップを発揮し、誰がどの馬を担当しても勝負に持ち込めるように仕上げる。これが厩舎のチーム力です。厩務員もできるだけ馬に乗って調教もこなす持ち乗り厩務員(関東では調教厩務員)になってもらう。一応、担当馬は決めるけれど、遠征などもあるので、他の馬にも目を配る。かつては、自分の担当外の馬に関しては口を挟まないというのが不文律でした。
わたしが開業したころ、チームで馬を作っていた厩舎は数えるほど。しかしこの20年くらいで厩舎のチーム化が劇的に進みました。
チーム力を高める具体的方策として、進上金の厩舎プールがあります。
厩務員の進上金は賞金の5%。給料とは別の、いわばボーナスです。パーセンテージは騎手と同じ。いかに厩務員の仕事が重要なのかわかります。角居厩舎ではこれを担当の総取りではなく3:2に分け、2%を厩舎にプールしておく。厩務員の頭数で割って配分します。すると「勝った馬は、オレが作った」という傲岸な意識は薄まり、厩舎全体で勝ち鞍を稼ぐチーム気質が生まれてきます。進上金の5%全部をプールする厩舎もあるようです。思い切ったチーム力強化策ですね。