3月下旬のとある平日。開店から30分後にはすでに長蛇の列ができていた。「1時間待ち」と聞いても続々と行列は伸びていき、あれよあれよという間に、最後尾は1時間半待ちとなった。
『大丸東京店』のメーンエントランス付近では、もはやおなじみとなったこの光景。彼らのお目当ては、『N.Y.キャラメルサンド』だ。生クリームと黒糖を使ったとろとろのキャラメルを、口どけのいいクーベルチョコレートとさくさくのバタークッキーでサンドした新感覚のスイーツ。
以前は期間限定の催事でしか買えなかったが、常設店舗の1号店がここ大丸東京店だった。2015年7月にオープンするや否や、たちまち話題の行列店となった。横浜から来た主婦の塚本みのりさん(仮名・60才)は、こう声を弾ませた。
「家族みんなキャラメルサンドが好きなので、東京に来たら必ず寄りますね。大丸にしかないから、並ぶのも覚悟のうち(笑い)。あと、旅行の時も必ず大丸でお弁当を買いますよ。うちは好みがバラバラだけど、ここならお弁当の種類が多いので好きなのを選べるし、できたてのお弁当っていうのがいいですよねぇ」
かつてはハレの日に欠かせない特別な場所だったデパート。しかしここ数年、デパートは厳しい現実に苦しんでいる。なぜこんなことになってしまったのか。著書に『胸騒ぎのデパート』(東京書籍)がある、放送作家の寺坂直毅さんが解説する。
「大型ショッピングモールの進出が原因でしょうね。2000年に大店舗法が規制緩和されたことで、ららぽーとやイオンなどの勢力が拡大して、子供やファミリーが一気に百貨店から流れ出た。
高級志向のデパートは用がなくなってしまったんですね。とくに地方はその傾向が強い。地方一の繁華街に行ってもシャッターが下りているのに、数㎞離れた田んぼの中にあるショッピングモールには、ここは東京かというくらい人が集まっている。デパートの包装紙の価値を知らない若者も増えているそうです。そんな逆風にあっても、大丸はどの地方でも健闘しているんですよ。これはスゴイことだと思います」
なかでも、大丸東京店の快進撃はスゴイ。2009年と2012年の全面改装後、右肩上がりの営業利益を上げており、年間の入店客数は約3700万人。東京ディズニーランドと東京ディズニーシーの入場者数を合わせた3019万人をはるかに上回るのだ。
「大丸東京店の店づくりは衝撃的でしたから」と話す寺坂さん。いったいどういうことなのか?