火中の栗を拾う──そんな表現がしっくりくるような社長交代が、今春、大手企業で相次いだ。
百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングス(HD)は、この3月7日、大西洋社長(61)が辞任する人事を発表した。大西氏は、婦人服がメインの百貨店業界において新宿伊勢丹メンズ館を成功させた人物で、業界では“ミスター百貨店”と呼ばれた。
“カリスマ”の後任として4月1日、杉江俊彦専務(56)が昇格して新社長に就任した。杉江氏はITに強い人物といわれるが、ネットやファストファッションが台頭し、業界に逆風が吹いているなかでの再建は、厳しい仕事になるだろう。
福島第一原発の事故対応費や廃炉費用が大幅に膨らむことが判明した東京電力でもこの6月に経営陣が刷新される。数土文夫会長(76)の後任には日立製作所の川村隆名誉会長(77)が就く。日立がリーマンショックで過去最大の大赤字を出した後に、再建を果たした実績が買われた。
社長には、関連会社、東京電力エナジーパートナーの小早川智明社長(53)が抜擢された。
前任者が大物だと、プレッシャーはさらに大きくなる。日産では、カルロス・ゴーン氏(63)が4月1日付で社長を退任して会長となった。後任社長は西川廣人氏(63)。1977年に日産に入社し、副社長、副会長などを経て2016年11月から共同CEO兼副会長を務めてきた。経済ジャーナリストの福田俊之氏はこう評する。
「17年ぶりの社長交代が話題ですが、西川氏はゴーン氏の腹心で、部品調達などの購買を担当してきた実務派。まだしばらくはゴーン氏が会長としてリーダーシップを取るつもりでしょう。社長交代人事に対する日産社員の反応を聞くと、サプライズがなく落胆したという声が少なくない」
真価はゴーン氏が去った後に問われることになりそうだ。