映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、モノマネ芸人としてキャリアをスタートした片岡鶴太郎が役者の道も歩むようになり、時代劇に出演するようになったときのことを語った言葉をお届けする。
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片岡鶴太郎は1991年の大河ドラマ『太平記』で狂気の権力者・北条高時を演じて主人公の足利尊氏(真田広之)と対峙、作品前半を大いに盛り上げた。
「最初の撮影は足利でのロケで、闘犬のシーン。真田さんが犬に引きずりまわされているのを『まわれ、まわれ』と喜ぶ芝居があるんですが、セリフを読んでいると声が高くなる。ちょっと狂気っぽいような。その案に監督も乗ってくれたので、ああいう演技になっていきました。
自分には政治はできないことを悟っていて、それよりも和歌や音曲を愛する男の悲哀や、死を常に覚悟しながら滅亡を迎えるやるせなさを意識して演じましたね。ただの天上人より、やっぱり悪役がいいですから」
その後も、大河では『毛利元就』では野心家の家老・井上元兼、『軍師官兵衛』では身勝手な主君・小寺政職と、主人公に立ちはだかる役を演じている。
「元兼は監督から『田中角栄』でやってくれと言われました。ですから、『計算に強い野心家』というのは意識しましたね。
小寺の時は『金子信雄でやってください』です。『仁義なき戦い』の親分。それで撮影初日に鼻を赤く塗りました。決断せず周りを見ながら、てめえだけが生き残りたい。そういう自己保身のみみっちさや何かを探る臭覚を鼻で表現したかったんです。
ヒントは、舞台を終えたコメディアンですね。舞台用に鼻毛とかを顔に描いているのに、その顔のまま楽屋で付き人に怒る。これが実に怖いんですよ。それと同じで『官兵衛は生かしておけん』となった時に、この鼻の赤さが怖いだろう、と」
2000年にスタートした東映京都撮影所の時代劇シリーズ『八丁堀の七人』では同心役を演じ、与力の村上弘明との身長差コンビが人気を博した。