その国をどう呼ぶのかは、時代とともに移り変わる。以前は普通に呼ばれていた名前が、差別だと禁じられることもあった。北朝鮮と韓国をどう呼ぶのかの移り変わりについて、評論家の呉智英氏が考察する。
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先日東京の新橋駅を降りると、右翼が街頭演説をやっていた。内容は例の調子だったが、一つだけ、おっ、面白い、と思った。まだ勢いがあった頃の日本共産党が使っていた言葉が使われていたのだ。右翼活動家はしきりに、南朝鮮、南朝鮮、と言っている。
共産党は二十世紀末まで「韓国」という名称は使わず、必ず「南朝鮮」と呼んでいた。朝鮮半島の正統な国家は北朝鮮であり、南朝鮮にあるのは米軍に後押しされた傀儡国家だ、というわけである。どうしても韓国という言葉を使わなければならない時は、かっこをつけて「韓」国と呼んだ。例えば、日「韓」条約反対などと。
米軍基地反対運動などで長く歌われてきた反戦歌に『この勝利ひびけとどろけ』(荒木栄作詞作曲)がある。1962年春の福岡の板付基地包囲闘争の「勝利」を歌ったものだ。
筑紫野の緑の道を
すすみゆく十万の戦列
(略)
とびたてぬ一〇〇のジェット機
姿かくす戦争の手先
板付は包囲された
アメリカは包囲された
南ベトナムへ南朝鮮へ
この勝利ひびけ とどろけ
「十万の戦列」はいつもの「主催者側発表」だし、基地突入ならともかく、基地外の包囲だけで軍用機が飛行中止するとは思えないのだが、それは措くとして、はっきりと「南朝鮮」と歌っている。