【書評】『昭和解体 国鉄分割・ 民営化30年目の真実』/ 牧久・著/講談社/本体2500円+税
【著者プロフィール】牧久(まき・ひさし)/1941年大分県生まれ。ジャーナリスト。早稲田大学第一政治経済学部卒業後、日本経済新聞社入社。同社代表取締役副社長、テレビ大阪会長等を歴任。他の著書に『満蒙開拓、夢はるかなり』(ウェッジ)など。
【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)
明治以降、日本の近代化を土台から支え、戦後の再スタート時には60万人の職員を擁した国鉄。本書は、「ミニ国家」とも喩えられたその巨大な公共事業体が、30年前についに分割・民営化されるまでの最後の20年間を再検証したノンフィクションである。
後にJR各社の社長・会長を歴任する国鉄内改革派のリーダー「三人組」(井出正敬、葛西敬之、松田昌士)、政権の目玉政策にして改革を推し進めた中曽根康弘、猛反対した国労の「ドン」富塚三夫ら多くの関係者をあらためて取材し、未発表資料も入手し、書き下ろした。
何といっても、国鉄が抱えていた荒廃の凄まじさ、病巣の根深さに嘆息する。当局が合理化や生産性向上を図ると、組合が猛烈に抵抗する。現場で組合員が管理職を突き上げ、罵倒するのは日常茶飯事で、組合員のヤミ給与、カラ出張、ヤミ休暇、ブラ勤(出勤しても仕事をしないこと)が横行し、スト権を求めるスト権ストなどに対して当局から下される処分も骨抜きにし、現場の人事権も実質的に組合が握っていた。
対立は当局対組合にとどまらず、国労と動労、鉄労など他の組合との抗争も激しく、当局内にも「国体護持派」と呼ばれる改革反対勢力が存在し、組合と馴れ合っていた。そうした勢力の背後には既得権を守りたい運輸省、自民党運輸族、社会党がついていた。過激派の対立が労組の抗争に持ち込まれ、死者の出る内ゲバも起こった。