人気グループやアーティストのコンサートでは、チケット完売後に増設された席の追加販売が行われることがある。「制作解放席」「機材解放席」などと呼ばれ、ステージを見るのに死角が発生することを明記した上で販売されるチケットだ。ところが、L’Arc-en-Ciel(ラルクアンシエル)が4月5日に発売した「ステージバック席」は、ステージの裏側の何も見えない場所だと明記されていたため大きな注目を集めた。
「見えづらい席が販売されるのはよくあることだけれど」というのは、都内の女子大学生。一年に何度も、自分や友人が好きなアイドルのコンサートへ行くためにファンクラブに入っている。
「私が行ったことがあるコンサートにも『制作解放席』が発売されることがあります。確かにステージ全体は見づらいですが、たいてい会場には大きなスクリーンが用意されています。それに、出演者が気を遣って近くに来る回数を増やしてくれたり、手を振ったり声をかけてくれる。だから、かえってお得かもしれないと言われています。でも、ステージがまったく見えない上に、モニター映像を見ることもできない席は想像がつかないです」
制作解放席、機材解放席などの名前で売られる追加席は、東京ドームやさいたまスーパーアリーナ、横浜スタジアムなど、ふだん劇場として使われない場所でコンサートが行われるときに販売される。ステージの左右に設置されることが多く、舞台上が見切れるため「見切れ席」と呼ばれることもある。
ステージに対して死角が発生する席は、嵐やAKBグループ、ラブライブ!やEXILEなど、いずれもチケット入手が困難な人気アーティストのコンサートでしか見られない現象だ。とはいえ、どのコンサート会場もスクリーンが設置され、場内を練り歩くような花道があり、死角に対して演者がサービスすることで知られているためファンも代わりの楽しみを見いだして購入している。
しかし、今回販売されたL’Arc-en-Cielのバンド結成25周年を記念したアニバーサリーライブ「25th L’Anniversary LIVE」のステージ裏側の何も見えない席は、見えない代わりの何かが分かりづらい。それでも、やはりライブは会場で見たいという声が大きいことから見えない席の追加発売が決まった。2008年、2012年の海外公演も現地で楽しんだというL’Arc-en-Cielファンの40代女性はいう。
「当たり前のことだと思うけど、ライブって、見えているモノを楽しむだけじゃない。その場所と時間を共有することで起きる何かがとても大事なんです。今回も映画館でライブビューイングがあって、そこもファンが集まるから楽しいけれど、やっぱり会場で、ライブで体験するものとは違う。見えない席であっても、絶対にライブの場所にいたい気持ちはとてもよくわかります」
とはいえ、さすがに「まったく見えない」今回のケースは不満が出るのではないかと予想されたが、8日と9日、東京ドームでのライブが終わったてみると、ステージバック席だったという客からは不満の声がほとんど聞こえてこなかった。当日券としてステージの一部が見切れるウイング席の発売が決まり、そちらに振り替えることも可能だったが、そのままステージの裏側で楽しんだ人も少なくなかった。