悲願の五輪4連覇をかけたリオ五輪女子レスリング53kg級決勝戦。惜しくも敗れた吉田沙保里選手(34才)はマットの上で号泣した。
「お父さんに怒られる、ごめんなさい! ごめんなさい!」
この度、『負けても克つ子の育て方 泣かないで沙保里』(小学館)を上梓した母の吉田幸代さん(61才)がやさしく声をかける。泣きじゃくりながら駆け寄ってきた娘をギュッと抱きしめると、
「大丈夫、大丈夫。あなたのおかげで4度もオリンピックに来られたのよ。ここまで連れてきてくれて本当にありがとう」と言った。
沙保里選手は元レスリング選手で2014年に他界した父・栄勝さん(享年61)に、幼い頃から厳しいレスリング指導を受けてきた。
「夫は“攻めて負けるのはいい”と言い、逆に守って勝つとすごく怒りました。リオでは負けたけど沙保里は最後まで攻めていたから、夫も“沙保里は頑張った”と褒めたと思います」(幸代さん・以下「」内同)
「霊長類最強女子」と称され、数々の偉業を達成してきた沙保里選手。そんな彼女を本当に強くしたのは、幸代さんの「負けても克つ」子育てだった。
誰もが金メダルを疑わなかったリオ五輪。しかし幸代さんは、沙保里選手が負ける日が来ることを覚悟していたという。
「それまでは弱音を吐かなかった沙保里が、リオ五輪前は“めちゃくちゃ緊張する”“眠れない”と言っていました。どんな世界でも新旧は入れ替わっていくもの。沙保里が10年以上も世界のトップで頑張ってこられたこと自体、不思議ですから」
それでも沙保里選手自身のショックは大きかった。
「試合の翌日、国際レスリング連盟の会食で会った時は、周りに気を使わせまいと、努めて明るく振る舞っていましたが、顔はやはり曇っていました。金メダルを獲った選手が大勢いるなかで、自分は銀メダル。ときおり、すごく寂しそうな表情をするのが私にはわかりました」
その会食が終わり、沙保里選手が「お母さん、これメダル」と言って銀メダルを見せてくれた時、幸代さんはこう言って祝福した。
「すごくきれいな色やね。よかったね、うちにない色やから」
すると沙保里選手も「うん、これもいい色やろ」とうなずき、それから少しずつ明るさを取り戻していったという。その後、雑誌のインタビューで沙保里選手は「『ああ、銀メダルも綺麗だな』と思った」と前向きに語り、ドラマやバラエティー番組などにも出演し、笑顔を見せることが多くなった。
沙保里選手は3人きょうだいの末っ子として生まれた。父・栄勝さんは自宅で2人の兄にレスリングを教え、最初は見るだけだった沙保里選手も3才の頃には練習に加わるようになった。地元の子供たちも集まり始めたため、自宅の敷地に小さな道場を建てた。