ここにきて日本の大企業では創業家の存在が見直され、創業家が経営陣の方針に物申したり(出光石油など)、経営トップの座を創業家に“大政奉還”する企業(セブン&アイ・ホールディングスなど)が目立つ。
“大政奉還”で危機を乗り切った嚆矢がトヨタだ。創業者である豊田佐吉のひ孫、豊田章男氏はリーマンショック後の赤字決算という苦境のなかで社長に就任し(2009年)、1年目にさらに大きな危機に直面した。米国を中心に広がった新型プリウスのリコール問題だ。章男氏は米議会の公聴会に呼び出され、激しいバッシングにさらされた。
「創業家社長でなければ、内外のあの批判には精神的に耐えられなかったはずだ」(メガバンク幹部)
トヨタは章男氏の下で結束して立ち向かい、2015年度には過去最高益をあげた。『経済界』編集局長の関慎夫氏が言う。
「章男氏の前任の渡辺捷昭社長の時代のトヨタは『世界シェア10%』という目標を掲げて数字ばかりを追う経営にシフトしてしまい、事業規模の割には人材が育っていないなど、企業としてのバランスを失っていた。
そこへ創業家の社長が登場し、数字だけを追うのではなく、持続的にこつこつと成長する経営に改めた。それによって人材も育つようになり、それで業績が追い付いてくるようになるという、良い循環ができています」