組織を動かすのはリーダーシップではなく、こうあってほしい、こうなるだろうという「空気」。責任の所在を問おうにも問えない。これを日本人特有の問題として摘出したのが山本七平だ。『「空気の研究」』などの著書がある山本による「山本学」は多くの人をいまだに導いている。
石原慎太郎元都知事の証人喚問にまで発展した築地移転問題。政策決定過程での責任の所在を明らかにしようとした小池百合子知事が口にしたのは、「空気」なる言葉だった。
小池知事は「『いつ、誰が』という点をピンポイントで指し示すのは難しい。それぞれの段階で、流れの中で、『空気』の中で進んでいったということ」と都政の甘さを厳しく指摘。都政の課題を「山本七平的空気の問題で生じた」とも言っており、組織の機能不全を解くキーワードとして山本の言葉は有用だったようだ。
元サッカー日本代表監督の岡田武史氏も『「空気」の研究』を愛読する一人である。1998年フランスW杯出場に向け絶望的な雰囲気が漂う中、更迭された加茂周監督の後を受け急遽監督を任されることになった岡田氏は当時、報道が作り出す空気に悩まされていた。
岡田氏は選手が抱える不調や課題より、根拠なく不安を煽る報道によって作られる空気による悪影響を危惧していたという。岡田氏はW杯突破を危ぶむ記者に対し、「『「空気」の研究』を読んだことがあるか」と尋ねたという逸話もある。
他にも、NECの遠藤信博会長や三菱ケミカルの小林喜光会長など、経営者が座右の書として山本の著作を挙げることも多い。山本の日本人論は即ち、組織論としても示唆に富むものである。その言葉は今なお世のリーダーたちにとって指針となり続けている。
※SAPIO2017年5月号