5月9日に投開票される韓国大統領選は4月17日の公式選挙運動開始直後から、事実上の一騎打ちとなっている。「共に民主党」の文在寅氏(64)と「国民の党」の安哲秀氏(55)が火花を散らしているのだ。
産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏によれば、「すでに両陣営はテレビや公の場で激しいネガティブキャンペーンを行なっている」という。
文氏と安氏には因縁がある。2012年の前回大統領選時、野党候補を一本化するため、安氏は不出馬を宣言して候補の座を文氏に譲った。この“調整”を巡っては安氏の支持者が「美しい一本化といえるのか」と激しく抗議して、自殺をほのめかす騒動まで起きた。
両者の支持率は拮抗するが、元朝日新聞ソウル特派員のジャーナリスト・前川惠司氏は、「世論調査はあてにならない」と指摘する。
「回答率が20%台と低いうえ、韓国では世論調査に回答する人が嘘の答えをして、メディアを“操作”することもある。序盤から支持率が高いと、陣営に緩みが生まれますからね。そもそも韓国では“公正な選挙”など誰も信じていません」
根深い「不信」には理由がある。カネで票を買う選挙が繰り返されてきた歴史だ。前川氏が現地で取材した1992年の大統領選も金権選挙そのものだった。
「当選した金泳三は遊説の際、貸し切り列車の車両にメディアを招いた。海外メディアは別の車両だったので理由を尋ねると、『韓国の記者には金一封が配られる』とのことでした。
対立候補の金大中も大規模集会で聴衆に金を配っており、陣営に質すと『仕事を休んで来る人もいるので交通費を渡して何が悪い』と返された。そうした選挙戦が繰り返されてきたので、国民も世論調査や選挙活動に不正があって当たり前と思っているところがあります」