新しい友人の影響で、趣味の世界が広がるのは、若者だけの話ではない。高齢者となってからも、介護施設での交友関係から、新たな楽しみを見つける高齢者は少なくない。高齢者がより快適に趣味に没頭できるよう、サービスを拡充させる業者もある。デイケア施設利用をきっかけに、それまで体験したことがなかった楽しみに夢中になる高齢者のケースを、ライターの森鷹久氏が、リポートする。
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世界に先駆けて「超高齢化社会」を迎える我が国では「老人」をテーマにした瞬間に、ニュースや記事からは諦めや焦燥といった、ネガティブな雰囲気が漂い出す。老人問題は当然に”暗く語られるべき”ものなのか? 今回、ケアマネージャーの資格を持つ知人の助けを借りて複数の老人介護施設を取材したが、そこで目の当たりにしたのは、介護現場で働くパワフルで暖かい人々と、人間味が溢れまくったお年寄りたちの愛すべき姿だった。
東京・墨田区内にあるデイケアホームを利用しているAさん(60代)は、東京大学経済学部を卒業後、大手企業の経理畑で約35年間働いた。定年まで働くつもりだったAさんに、突然突きつけられたのは「早期退職」の文言が入った、会社からの通知文だった。このまま定年まで働くよりも、今辞めたほうが退職金も多い……。あとは悠々自適な老後を楽しめば良い、自分にそう言い聞かせて会社を後にしたAさんだったが、わずか半年後には脳梗塞で倒れた。
「気が抜けたんでしょうね。毎日朝起きて、ご飯を食べて、ぼうっとテレビを見る生活。元々外出するタイプでも何かに打ち込むタイプでもない」(Aさん)
一ヶ月ほどの入院生活を経て自宅に戻ったが、右半身に麻痺が残り自宅での生活は妻の介助が必要になってしまった。子育てなど、30年以上迷惑をかけてきた妻に、これ以上の負担はかけられない。そう思ったAさんは「死んでも嫌だった」という老人施設に通うことを決意。
「日中に家にいてはダメだと思い、朝行って夕方に帰ってこられるデイケアホームへの入居を決めました。老人施設に入るなんて、座して死を待つ老人が行く場所、と思っていたので気が重かったのですが、来てみると存外に面白くてね」(Aさん)
デイケアホームで知り合ったのは、Aさん同様に脳梗塞で倒れ認知症気味だった50代後半の男性B氏。施設の職員によれば、この男性と出会ってからAさんは人が変わったように元気になったというが、なぜか苦笑いだ。
「B氏は四肢に麻痺が残っていますが、若い分アッチの欲求がものすごい(笑)。施設職員にもセクハラまがいのことをしてくるため、本気で怒るとシュンとなる。男性職員が冗談で風俗を勧めたところハマってしまい、週一で通ってるようです。真面目一辺倒だったAさんもBさんに影響されてしまい……」(施設職員)
Aさんは、妻に内緒で東京・錦糸町にある派遣型風俗店を月に一度のペースで利用するようになった。その利用頻度はみるみるうちに増えていったが、目に見えて快活になっていくAさんとは対照的に、Aさんの妻は不信感を強めた。