訪日外国人客が4年連続で過去最高となる2400万人(2016年)を突破するなど、2020年の東京五輪開催に向け、インバウンド景気のさらなる拡大が期待されている。特に“五輪特需”を逃すまいと躍起になっているのが「ホテル業界」である。首都圏を中心に、新規開業や大幅リニューアルが続々と予定されている。
そのため、一時懸念されていた東京のホテル不足も何のその、大幅緩和されるとの予測さえ出始めている。しかし、祭りの後にやってくる“静けさ”の心配はないのだろうか──。ホテル評論家の瀧澤信秋氏が警鐘を鳴らす。
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政府主導によるインバウンド増への期待感、そして2020年への高揚感の中にあるホテル業界。日々多くの現場を取材していると、ホテルによる温度差が大きくなっていることが伺える。
もちろん立地や特性など各ホテルの持つ条件は異なるが、この好機を逃すまいと邁進するホテルが多い一方で、根拠なき楽観主義は危険だというスタンスを保つホテルも存在感を際だたせている。
確かに全体としてインバウンド数は増加しているものの、2016年でみると延べ宿泊者数は対前年比でマイナスに転じている。しかも、宿泊者数のうち85%を占めるといわれる日本人宿泊者数も減少している。
そんな状況の中、ホテルの新規供給客室数は、2018年までに東京だけで約1万9000室、全体としても2割増加する見通しで、ホテル不足どころか供給過剰の懸念も出始めている。
さらに、ホテル業界の脅威ともいえる民泊の動きもますます活発になっている。民泊新法は参入のハードルを上げると同時に、クオリティやコンセプト重視型民泊のフェーズ突入への足がかりとなり、ホテルライクなサービスを提供する民泊の出現が想定される。
少子高齢化や労働人口の減少などによる人手不足もホテル業界にとって深刻な問題だ。そもそもサーヒス業自体が深刻な人手不足。外食産業では店の閉店や深夜営業の中止に追い込まれ、経営に打撃を与えているケースも多い。ホテル業界もこれだけ大型ホテルやフルサービスホテルの開業が相次げば、スタッフの質以前に、運営が困難になるほど深刻な人手不足に陥ることは充分予見できる。
将来性や収益見通しの不透明さが一層叫ばれるホテル業界であるが、「アパホテル」のように、一貫して強気の展開で知られるグループもある。出店スピードはもとより、レベニュー・マネジメント(需要予測を基に販売を制限するなどして収益を最大化する)手法でも注目されるホテルだ。
2019年秋、横浜ベイエリアに開業予定の「アパホテル&リゾート 横浜ベイタワー」は客室数2311室と国内有数の規模。東京オリンピックをにらみ、増加傾向にある観光・ビジネス客の取り込みを狙う。一方で、市内のホテル関係者からは値崩れを懸念する声も出ている。市内ホテルの稼働率は現状では好調だがADR(平均客室単価)の下落も指摘されており、競合激化は避けたいというのが本音のようだ。
インバウンド需要は、為替変動をはじめ、治安・紛争、環境問題でも一気に冷え込む要素をはらんでいる。いくら稼働率が好調でも、熊本地震のように予測できない事態によって、経営に打撃を与えるケースはある。
そして、五輪開催でもっとも恐いのが“オリンピック型不況”だ。