昨年12月、北朝鮮の金正恩・労働党委員長は最高幹部を前にして、「南朝鮮(韓国)世論に北南和解ムードを拡散せよ」と檄を飛ばし、情報戦をしかけた。思惑どおり、次期大統領選に向けた韓国の世論調査では、革新系野党「共に民主党」の文在寅前代表が圧倒的支持率を集めているという結果が出た。きっと、思い描いたシナリオが現実味を帯びたと、金正恩氏は大喜びしたはずだ。だが、ジャーナリストの城内康伸氏が、現在の韓国情勢によって、金正恩氏のシナリオ通りにはなりそうもない現在の情勢を報告する。
* * *
4月に入り、正恩氏のシナリオが微妙に狂い始めた。5月9日投開票の大統領選挙が近づくにつれ、それまで独走を続けてきた文在寅氏を、中道に近い第2野党「国民の党」の安哲秀元代表が猛追。安氏が支持率で逆転する調査結果も出てきて、選挙構図が一変したのだ。
安氏躍進の背景には、ミサイル実験など挑発を繰り返す北朝鮮に「甘い」姿勢の文氏が独走することへの危機感がある。
共に民主党は3日に実施した大統領候補の予備選挙で、文氏の累計得票率が5割を超えたことで、決選投票を経ずに正式候補に選んだ。地元記者によると、予備選で敗退した2候補の支持層のうち「文氏を敬遠する中道に近い票が安氏に流れた」と解説する。
安氏は「韓国の安全保障上、米韓同盟は重要だ」と強調する。北朝鮮が6回目の核実験を準備中で、米軍が原子力空母「カール・ビンソン」を朝鮮半島近海に派遣するなど、軍事的緊張が高まる中、一部保守層の受け皿にもなっている。
安氏の攻勢に焦りを見せる文氏の口からは、「金正恩が最も恐れる大統領になる」という発言も飛び出してきた。「北朝鮮寄り」という自分のイメージを払拭したい思惑からだ。