スマホやインターネットなど、娯楽の幅がかつてより飛躍的に広がり、若者の読者離れが叫ばれるなか、誰もが読書家になるのは刑務所、あるいは拘置所だ。罪を犯した人々は、塀の中でどんな本を読んでいるのか? ノンフィクションライターの高橋ユキ氏が迫る。
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福田尚人被告(55)は今、読書の虫だ。福田被告は、土地の権利証などを偽造し、駐車場の土地の売買代金として2億5000万円をだまし取ったとして逮捕され、詐欺罪などに問われた。いわゆる「地面師」である。昨年11月に東京地裁で懲役6年の判決が言い渡され、現在は控訴中。週に2回面会に訪れる妻に、衣服などの日用品とともに、多数の本の差し入れを頼んでいる。
「メインに読むのは小説、ノンフィクション系。映画やテレビを見ているような感覚で時間を過ごせるからです。警察小説も読んでいたんですが、ここで読むと具合が悪くなるんで、捕まってからは時代小説。それもチャンバラもの。上田秀人、佐伯泰英、坂岡真なんかをよく読みます。
時代小説が好きな理由は、その世界に入り込めるところ。僕は歴史が好きだから、時代背景が忠実に描かれているものが好み。あんまり実際の歴史と違う設定だと冷めてしまうんです。塩野七生の『ギリシア人の物語』(新潮社)とか、最近は『マリー・アントワネットの髪結い』(ウィル・バシュア著、原書房)も読みました。歴史オタクの妻と共通の話題を持ちたくてね」
本人は冤罪を訴えており、足繁く面会に通う妻も「夫はやっていません」と訴える。妻曰く、「最近では武内涼さんの『駒姫 三条河原異聞』(新潮社)を読んで号泣したと私に話してくれました」とのこと。戦国時代に無実の罪で処刑されることになった美少女を、男たちが救い出そうとする物語だ。塀の中で冤罪を訴える自身の姿と、駒姫の境遇を重ね合わせたのか。