こと医療において海外の事情など知る機会はないし、その必要性も感じることはない。だが、いつも服用している薬が、海外では「処方されていない」、あるいは「マイナー」な薬だと聞けばどうだろう。その背景を紐解けば、日本のガラパゴス的な薬事情が見えてくる。
日本以外で一切処方されていないのは、抗生物質のフロモックスだ。1997年から塩野義製薬が製造・販売する薬で、風邪などに伴う熱や喉の痛み、歯科医院での虫歯治療の際など、幅広い症状に処方される。
フロモックスの売上高は89億円(2015年度)。すでにジェネリックも出ており、日本では最もポピュラーな抗生物質の一つである。
細菌感染症の予防と治療に用いられる抗生物質は、あらゆる病気に効く“万能薬”のように言われてきたが、最近では風邪などのウイルス性の病気には効果がないという考え方が欧米では主流になりつつある。日本発のフロモックスがガラパゴス化したのもそのためだ。神戸大学大学院医学研究科教授で感染症医の岩田健太郎氏が言う。
「日本ではいまだに、抗生物質を必要としない病気にまで抗生物質が漫然と処方されています。その理由は、昔から出されていた薬であり“念のため出しておこう”“出せば患者が安心する”といった慣習に倣っているからです」