最近流行の「羊肉」、その典型的な調理方法の源流を辿っていくと、意外な展開になった。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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調味料から飲食店のメニューまで大人気の様相を呈しているパクチー。コンビニチェーンでも「パクチーフェア」が展開され、伝統的タイ料理を提供する店のなかには「パクチー料理ありません」と店頭に張り紙をする店まで出るほどの過熱ぶりだ。
それにともなって相性抜群と言われる羊肉の人気もグングン上がっている。羊を主な食材に据える神田や上野、池袋などの人気の老舗に、人はますます列をなし、新規開店した店舗も上々の滑り出しとなっている。
羊を使った業態で目立つのは、ジンギスカンやしゃぶしゃぶ、串焼きなどだ。そして国内におけるジンギスカンの本場といえば北海道──。というかそもそも海外に「ジンギスカン」という料理はないのでこの料理の本場は北海道となる。しゃぶしゃぶも同様で海外に牛肉を湯にくぐらせて、ポン酢やもみじおろしで食べる料理はないので、これもまた本場は日本となる……。
と、大声で言い切ることができれば簡単なのだが”本場”について考え始めるときりがない。というのも、現代日本人が口にする食べ物の多くは海外にそのルーツを持つ。
例えば、ジンギスカン。料理名として文献で最初に確認できるのは1926(大正15)年の「素人に出来る支那料理」という料理書だ。その片隅に「成吉汗斯鍋」という項目があり、「在支日本人の一部が斯(か)く命名」「本当の名前は羊烤肉(ヤンカオロー)と云う回々料理」と説明されている。「回々料理」とはイスラム料理を指す。元来、イスラム教では豚肉が禁忌とされ、羊肉は貴重な動物性タンパク源だった。
同書で紹介されている「成吉汗斯鍋」は「本当の名前は羊烤肉(ヤンカオロー)」と明言されているように「箱火鉢か鍋のようなものに火をおこし、それに金網もしくは鉄の棒を渡し、羊肉を焙りながら、支那の醤油をつけて賞味」するとある。鍋物料理でもなければ鉄板料理でもない。鍋は「薪を燃や」すための火床として存在したのだ。つまり日本に持ち込まれた当初は、現在も一部の中国料理店にある「烤羊肉」に近い形だったと思われる。