神奈川県川崎市。JR南武線武蔵新城駅から車で5分ほど離れた住宅街にある工場が立ち並ぶ一角に、『ビジテーションホーム そうそう』ができたのは2014年10月のこと。シルバーとグレーを基調にしたシックな外壁の3階建てで、一見するとおしゃれな会社のようにも見える。建物の一方には町工場があり、もう一方には住宅が立ち並ぶ。建物前の道路は細いが、車が行き交い、人の往来もある。
ふと、小さな子供が、補助輪付き自転車を一生懸命こいで、通りを行くのが目に飛び込んできた。普段ならそう気にもならない、ごく普通の何気ない日常にすぎないが、このときは、生と死が混在している不思議な空間に迷い込んでしまったかのような不思議な気持ちになった。
道路に面したその建物の中には、壁一枚を隔てて、火葬を待つ遺体が何体も安置されているから――。
現在65才以上の高齢者が人口に占める割合は27.3%で、2060年にはその割合が39.9%と、2.5人に1人が高齢者になると予測されている。一方で合計特殊出生率は1975年以降、人口を安定できるといわれている2を切っており、生涯未婚率も過去最高を更新し続けている。
そんな超高齢社会が、次に迎えようとしているのが「多死社会」だ。
厚生労働省によると、2015年の死亡者数は約130万人となり、2039年にはその数が167万人に達すると予想されている。ほかの世代に比べて突出して人口が多い団塊世代が人生の終わりの時期を迎えるためだ。戦争など特殊な事情を除き、30年あまりの短期間でこれほど死者数が増えるのは世界的にも珍しい現象といわれている。
多死社会になると、何が起こるのか?
社会福祉や老後の保障、医療などの分野での問題はより一層深刻化していく。なかでも、すでにその問題が顕在化しているのが「火葬場」だ。特に都心部では“葬儀難民”が続出している。東京都福祉保健局の統計によると、都内の年間死亡者数は約11万人。毎日平均300人以上が亡くなっている計算になるが、都内の火葬場はわずか26か所。保冷庫は常に遺体で満杯だという。