2年前の1月、9年にもわたる闘病の末、母・久子さん(享年76)を胃がんで亡くし、今年1月には父・正行さん(享年80)を肺がんで亡くした女優・有森也実(49才)。現在主演映画『いぬむこいり』が話題となっているが、今年の母の日に、自宅に並ぶ両親の遺影に向かってそっと手を合わせた。
しかしこうして穏やかな気持ちで手を合わせることができるようになったのは、実はつい最近のこと。彼女の胸には30年にもわたる両親への葛藤がくすぶっていたからだ。
父と母は離婚することもなく、最期まで別居生活を続けていた。「夫婦は一緒に生活するもの」「それが子供にとっても最善」──当たり前のようにそう思って生きてきた有森にとって、両親の煮え切らない関係は、到底理解できるものではなかったのだ。
「母は離婚を考えていました。『今年はお父さんのところに行って離婚届に判を押してもらわなくちゃいけないわよね』とか、そんな話だって何度もしてましたが、全然行動に移さない。がんになって9年くらい闘病生活があったんですが、『なぜ離婚しないのか』っていうことは最期まで教えてくれなかったですね。本心は何も明かさないまま逝ってしまったんです」(有森、以下同)
佐賀・鹿島市にある『松岡神社』。土地の有力者が日本武尊(やまとたけるのみこと)を奉祀したのが始まりといわれ、700年以上の歴史ある神社だ。有森の父・正行さんは、亡くなるまで、単身でこの神社の宮司を務めていた。有森がこの神社を訪れたのは、母の葬儀のときだった。
確執といえば大げさかもしれないが、有森は、娘として、ひとりの女性として、両親へのいら立ちをずっと抱えていたからだ。
「母とは闘病中もぶつかってばかりいました。だって、娘として私は、少しでも現状をよくしたいって思うじゃないですか。夫婦の、家族の問題を解決できるような選択をしてほしかったんです。でもね、母は解決する、前に進むということが怖かったんですね。その場に立ち止まることの方が楽だったんです。父のことは避けていたので直接聞いていませんが、父は別れたくなかったようです。私にはそんなふたりが理解できなくて…だから母が亡くなった当時、ちっとも悲しくなかったんです」
母に手を合わせられるようになったのは、父が亡くなった後のことだった。
「もう少し早くこういう気持ちになれたら、もうちょっと違う家族になれたのかもしれませんね…」
多くを語らず逝ってしまった最愛の母。父も彼女を追うように亡くなった。30年という長い、長い、家族の物語は有森をひどく傷つけてきた。怒り、苦しみ、悩み、悲しみ…いつもそうした厄介な感情にさいなまれ続けてきた。
しかし今その物語は、彼女自身を優しく、温かく包んでいる──。