中国から入ってきて日本に浸透した文化のひとつに「食」が挙げられる。以来、独自の発展を遂げた「日本の中華料理」が持つ、本場の中華にない魅力を、芸能界きっての食通である中尾彬氏に聞いた。
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日本で食する中華料理の最大のアドバンテージは「記憶」だと思います。私は戦後の貧しい時期に千葉の木更津で育ちました。実家の目の前に海が広がり、海産物が豊富にとれるので食卓は海の幸ばかりで、カレーにまでアサリが入っていました。
(妻の池波)志乃は「あら、シーフードカレーいいじゃない」と無邪気に言うけど(苦笑)、子供心には魚がイヤで仕方なく、どうしても肉が食べたくて夜中に親父が持ち帰る折詰が待ち遠しかった。長男だから先に食べる権利があったんです。
そんな世代にとって、街の中華屋で食べる料理はごちそうでした。チャイニーズレストランなどない時代に街の中華屋で「支那そば」を食べて“メンマとはこんなにおいしいものなのか”と感動しました。
シウマイの味も忘れられません。本場のカニ爪や貝柱を混ぜて作ったシウマイではなく、くず肉を集めてグリーンピースでごまかしたような代物を街の肉屋で買い、ウスターソースをつけて食べると実においしい。〝大人になったらこのシウマイを肴に一杯やろう〟と心に誓ったものです。
本場の中華には四川、北京、広東などいろいろあるけれど、多くの日本人が好きな中華料理は、駅前の路地裏にある薄暗い店の餃子やチャーハンでしょう。中華は日本人にとってそれだけ身近な料理であり、「中華料理が苦手」という声はあまり聞きません。