長い歴史を持つ大相撲には神事としての側面が色濃く残っている。土俵上での所作にも、様々な意味がある。古参親方はこう語る。
「四股は地下の邪鬼を踏みつけて遠ざける祓い清めの作法だし、土俵へ上がる力士に力水をつけたり、土俵に塩を撒いたりするのも、水や塩で穢れを落とす潔斎の意味がある。ただ、今の若い力士はそうした所作のなかに独自の“ルーティン”を持ち込んだりする。それを嘆かわしいと見る関係者がいる一方で、お客さんたちが“個性”として喜んでいるのも事実ですね」
よく知られているのは関脇・琴奨菊が時間いっぱいでみせる「琴バウワー」だ。最後の塩を掴んで土俵の中央に向き直ったところで、上半身を大きく仰け反らせる。フィギュアスケートの技・イナバウワーにちなんで名付けられた。
「琴奨菊が初めて大関獲りに挑戦した2011年7月場所、終盤に連敗を喫した。その時にイチローの本を読んでルーティンの必要性を知り、自分なりに考え出した動きだといいます。取り入れた翌場所に12勝を挙げて大関に昇進。以来、ずっと続けています」(担当記者)
イチローの打席に入る直前の動作やラグビーの五郎丸歩がキック直前に人差し指を立てて手を合わせる動きは、集中力を高めるためのものとして知られるが、角界では「ゲン担ぎ」の意味合いが込められたものが少なくない。
横綱・白鵬は最後の仕切りの後、小走りに塩を取りに行く場面がお馴染み。汗を拭くタオルは必ず左手で受け取る。