憲法改正発言の真意について国会で野党議員に質問された安倍晋三・首相は、「読売新聞を熟読してほしい」と論議を拒否し、話題になった。改憲といえば、真っ先に思い浮かぶのは中曽根康弘元首相だが、安倍氏と中曽根氏は思想、信念、政治手法まで全く違うのだ。
「われわれは、いわゆるマッカーサー憲法を改正しようとするのでもない。明治憲法を改正するのでもない。これはいずれも過去の所産であります」
日本が米軍の占領から独立して3年後の1954年、中曽根氏は当時の吉田茂・首相に国会でそう新憲法制定の必要性を質問し、翌1955年に最初の『自主憲法のための改正要綱試案』を発表した。37歳の時である。その後、1961年には首相公選制や自衛軍創設を盛り込んだ前文と11章からなる『高度民主主義民定憲法草案』をまとめ、政界引退後の2005年には『憲法改正試案』とこれまでの生涯に3つの憲法改正私案を書き上げた。憲法への思索を深め、国家観、憲法観を世に問うてきた人物だ。
それに対して、安倍首相は現憲法の前文を「いじましい。みっともない憲法ですよ、はっきり言って。それは、日本人が作ったんじゃないです。そこから変えていくっていうことが、私は大切だと思う」(2012年12月14日)と批判し、「GHQに押し付けられた憲法だから改正しなければならない」という押し付け憲法論に立つが、未だ自身の改正私案を国民に問うたことはない。
その安倍首相はかつて中曽根氏が書いた憲法前文を“抹殺”したことがある。