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【書評】稀代の旅好き・正岡子規が見た風景を辿る

【書評】『子規の音』/森まゆみ・著/新潮社/2100円+税

【評者】川本三郎(評論家)

 正岡子規(一八六七-一九〇二)というと病状記『仰臥漫録』や『病牀六尺』が知られるため、引き籠りの人と思ってしまうが、本書を読むと元気な頃は、実によく旅をしていることが分かる。

 著者は、丹念に子規の旅を辿っている。そこから「旅する子規」が浮かび上がる。十五歳の時に四国の松山から東京に出て来た。それから帰省のたびに寄り道をする。京都、岡山、広島。ある時など、中山道を歩くことにし碓氷峠を越え、軽井沢から木曽路を歩き、名古屋に出る。

 東京近郊は言うまでもない。板橋、大宮、さらに日光。東京から水戸まで歩いたこともある。房総半島も歩く。菅笠をかぶり草鞋(わらじ)を履いての旅はお遍路の順礼のよう。いい旅だったのだろう。こんな句が生まれる。「菜の花のかをりめでたき野糞哉」。「うーん、気持ち良さそう」と書く著者自身も子規の旅を楽しんでいる。芭蕉と同じように「子規と旅は切り離せないもの」になる。

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