国内

NPO法人運営の八王子の樹木葬墓地 里山保全の狙いも

自然のなかにある「東京里山墓苑」

 もはや「お墓」といっても、墓地に墓石がズラリと並ぶものだけではない。都心のビルの中に墓地があったり、「樹木葬」もある。今回は、樹木葬墓地が存在する東京都八王子市にある東京里山墓苑をノンフィクションライターの井上理津子氏が訪れた。

 * * *
 前回、日本で初めて1991年に樹木葬を始めた岩手県一関市の知勝院を訪れ、スケールの大きさに驚いた。山野草が咲く、里山全体が樹木葬の墓地。

「自然を再生し、守る」という大命題の手段として「木を目印に、コンクリートも墓石も使わないエコな墓」が造られていた。遺骨をじかに穴の中に埋葬する方法のため、故人が「土に還る」ひいては「木となり花となる」ということをリアルに感じられ、とても魅力的だった。

「私の始めた樹木葬とは全く理念の異なる墓地が、樹木葬墓地と名乗っていることに困惑しています」と、樹木葬の名付け親である知勝院先住職・千坂げん峰さんがおっしゃったが、「樹木葬」はさまざまな形態に広がりを見せている。

 今回は都市部近郊の樹木葬墓地に足を運んでみた。知勝院の理念に「近い」と感じた「里山タイプ」が、東京都八王子市の東京里山墓苑だ。車で向かった。中央道の八王子インターチェンジから20分余り。

 幹線道路を折れると、農地や雑木林が見えてくる。その先の深い緑に包まれた丘陵地に、別荘のような建物がぽつり。東京里山墓苑を持つ日蓮宗・延寿院である。

「都心から1時間なのに、『本当に東京?』のような環境でしょう?」

 本堂に隣接する、冬場に活躍したであろう薪ストーブのある休憩室で、墓苑の事務局長・白石亘さん(45才)が笑顔で迎えてくれた。コードレーンのジャケットがお似合いでおしゃれな人だなあと思ったら、もともとはウェブデザイナーだったという。

「なぜ、樹木葬を?」と、つい経歴を聞きたくなるのが、私の癖だ。

「最初の入り口は葬儀社でした」と、白石さんは言う。

 15年ほど前、寺院や葬儀社のホームページのデザインを手がけていたが、消費者目線のホームページにしたいと思っても、「葬儀料金は提示できない」が不文律。疑問を持った。料金の明示化などを大手葬儀社の社長に提案し、転職。葬儀社社員として、葬儀の現場と企画室業務を兼任し、生前契約、エンディングノートなどを提案していく中、海洋散骨や樹木葬の存在を知った。海洋散骨は各地の港から散骨を行う船の手配などをシステム化し、事業化。

「小さなお子さんが亡くなり、東京ディズニーランドに連れて行ってあげられなかったからと、ディズニーランド近くの海に散骨されたご家族」がいたことが忘れられない。「故人の記念に」と、東京都が実施していた「マイ・ツリー(寄付で都内の街路樹を植える事業)」を葬儀社から遺族にプレゼントする企画も打ち出し、好評を得たそうだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

『マモ』の愛称で知られる声優・宮野真守。「劇団ひまわり」が6月8日、退団を伝えた(本人SNSより)
《誕生日に発表》俳優・宮野真守が30年以上在籍の「劇団ひまわり」を退団、運営が契約満了伝える
NEWSポストセブン
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン
貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
「まだまだ伸びしろがある」…平成の大横綱・貴乃花が“令和の新横綱”大の里を語る 「簡単に引いてしまう欠点」への見解、綱を張ることの“怖さ”とどう向き合うか
週刊ポスト
インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、小泉家について綴ります
《華麗なる小泉家》弟・進次郎氏はコメ劇場でワイドショーの主役、兄・孝太郎はテレビに出ずっぱり やっぱり「数字を持っている」プラチナファミリー
女性セブン
調子が上向く渋野日向子(時事通信フォト)
《渋野日向子が全米女子7位の快挙》悔し涙に見えた“完全復活への兆し” シブコは「メジャーだけ強い」のではなく「メジャーを獲ることに集中している」
週刊ポスト
1966年はビートルズの初来日、ウルトラマンの放送開始などが話題を呼んだ(時事通信フォト)
《2026年に“令和の丙午”来たる》「義母から『これだから“丙午生まれの女”は』と…」迷信に翻弄された“昭和の丙午生まれ”女性のリアルな60年
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト