【書評】『みみずくは黄昏に飛びたつ 川上未映子訊く/村上春樹語る』/川上未映子、村上春樹・著/新潮社/1500円+税
【評者】香山リカ(精神科医)
村上春樹って幸せな人だな、とつくづく思う。何が幸せって、こんなすばらしいインタビュアーに出会える作家はめったにいない。そのインタビュアー・川上未映子は、村上春樹の愛読者。自分が3歳のときにデビューした(!)村上氏の作品を、長編、短編、そのエッセイなどなどを丹念に読み込み、朗読会にまで足を運んできたそう。
しかも、ただのファンではなく自らも芥川賞作家であるから、インタビューでは村上氏の私生活にではなく、何より“創作の秘密”に焦点を絞って切り込んでいく。
長編小説を書くとき、村上氏は着想が生まれてから「自分の中で何かが自動的に動き始める」のを待ち、それから一日十枚、展開や結末も決めずに書き続けていく、という有名な話がまずは語られる。ふつうならそこで「すごい」と終わりそうだが、川上氏は「そこからどうやって物語を作っていくのか」と食い下がり、以前に村上氏が語った「家」のイメージを提示する。
するとそれに導かれるように村上氏は、「家の地下一階」にある近代的自我には興味がない、さらにその下にある「地下二階」、「集合的無意識が取り引きされる古代的なスペース」に降りて行こうとしている、という話を始めるのである。「ああ、ハルキっておしゃれなバーやジャズが出てくるトレンド小説書く人」と思っている人には驚きだろう。