北朝鮮のミサイル実験後の東アジア情勢の混沌を反映するように、THAAD(サード)ミサイルシステム設置を巡る韓国と各国の軋轢は深まっている。著述家の古谷経衡氏が、設置場所である星州を訪れた。
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グレゴリー・ヘンダーソン曰く、「フランスにおけるパリがそうであるように、ソウルは朝鮮最大の都市であったばかりでなく、朝鮮自身でもあった」(『新・韓国現代史』文京洙、岩波新書)。という訳で、半島情勢を知るにはまずソウル見分が肝要である。しかし今回私の渡韓の目的は同国大統領選挙の結果、文在寅氏が当選した直後のソウル市の空気感ではなく、折しも大統領選挙でも争点のひとつになった韓国中南部・慶尚北道に設置された在韓米軍のサード設置場所である、同星州郡である。
このサードは日本では「高高度迎撃ミサイル」と訳されるが、かいつまんで言えば迎撃高度20km程度のPAC3よりもはるかに広い範囲(150km、成層圏より上)をカバーできる弾道弾向けの迎撃システムである。このサード配備を巡って、大統領選挙期間中の前後、3000人とも1000人ともいわれる反対派が、寒村に押しかけ熱狂の如く反対のシュプレヒコールを上げたことは日本でも大きく報道された。
だが当然のこと、サード配備は文在寅就任後5日目にしてIRBM(中距離弾道ミサイル)発射実験を行った北朝鮮への有効な防御手段の一つである。が、何故に韓国人はこのミサイルに反対するのか。