「韓国では政権が代わると必ずこうした話題が出てくるんです」──そうため息をつくのは韓国情勢に詳しいジャーナリスト・室谷克実氏だ。
文在寅・新大統領が誕生した韓国では、各世帯が抱える家計債務(借金)を棒引きにする“徳政令”が大真面目に検討されているというのである。
たしかに、苦境に喘ぐ韓国経済における最大の問題の一つが、家計債務の増大であることは間違いない。韓国銀行(中央銀行)の発表によれば、昨年末時点で家計債務総額は約1300兆ウォン(約130兆円)に上り、前年比11.7%増を記録している。
「文氏はもともと選挙期間中から家計債務の整理を公約に掲げていました。ここにきて現地紙が“1000万ウォン(約100万円)以下の借金を10年以上抱えてきた人”について借金を国が肩代わりすることの検討を始め、財源の調達へと動き出したことを報じました」(現地メディア関係者)
実は“徳政令”は過去に韓国で繰り返し実行されてきた。ジャーナリスト・前川惠司氏は「朴槿恵政権時も、『国民幸福基金』を通じた債権の買い上げなどで国民の負債の減免が図られてきた。人気取りの側面が強い」と解説する。
資本主義の原則を曲げるような政策には懸念の声もあがる。前出・室谷氏はこういう。
「結局、徳政令といっても実行される時には様々な条件がつけられ、全員の借金がなくなるわけではないので不公平感も広がります。また、ブラックリストに載っているような債務者については、国が金融機関などから買い取る際に、どうせ回収の見込みがない債権ということで、額面よりもかなり安い水準で買い取る例が多い」
いざ実行されても、最初に報じられた時ほどのインパクトはないわけだ。