国内

ネットの反差別運動の歴史とその実態【3/4】

トレンドワードにも入った「ぱよぱよちーん」とは?(ヤフーリアルタイム検索より)

 ネットニュース編集者・中川淳一郎氏による「ネットの反差別運動の歴史とその実態」レポート(全4回中第3回・文中一部敬称略)。

 * * *
 こうした流れがあった中、日韓関係に目を向けてみよう。2013年2月、新たに韓国大統領に就任した朴槿恵は従軍慰安婦問題等を含めた「告げ口外交」を海外諸国に対して繰り返し、徹底的に日本を悪者にする戦略に出た。日米韓首脳会談でもカメラがいる場では安倍に対してそっけない態度を取り、オバマ大統領を困惑させた。当初、朴は親日派だと韓国内で捉えられていたため、朴自身も支持率を上げるためには安倍及び日本に対して強気の姿勢を見せればいいと考えていたのだ。そして、2014年7月、舛添要一・東京都知事が韓国を訪問し、朴にへりくだるかのようなお辞儀をしている様が多数報じられた。さらには、東京都が新宿区の土地を韓国学校拡充のために用意するといった宣言も2015年3月にし、舛添に対してはネトウヨを含め嫌韓派からリコール運動も発生した。

 しかし、この段階で韓国はもはや経済的にもガタガタで、「ヘル朝鮮」と言われるほど若者にとっては希望のない状態に落ち込んでいた。2016年には朴槿恵と40年来の友人・崔順実による収賄等の疑惑が発覚。ソウルでは毎週のように数万~100万人規模の朴槿恵退陣要求デモが発生する状況になっていた。

 基本的にネトウヨを含めた差別主義者は、韓国が元気であればあるほど、そして「反日」をする余裕があるほど養分が与えられ、元気になり路上に繰り出し、ネットで呪詛を吐き散らかす。だが、2015年以降、もはや韓国は反日をするどころではなかった。国内経済を立て直すことが急務で、反日で支持率を上げようといった小手先の戦略が通用しないほどになっていたのだ。朴槿恵も就任当初の強気な告げ口外交は鳴りを潜め、日本側も「嫌韓」どころではなく「呆韓」になり、あとは「忘韓」状況になった。国際関係においては、イスラム国の台頭に伴う邦人の拘束などもあり、韓国の存在感は下がりまくっていた。また、朴槿恵があまりにも反日的な態度を示していただけに、かの国が苦境に陥ろうがどうでもよくなっていた。

 だから、ネトウヨにしてもデモをするにも題材が見つからない、といった状況になっていったのだ。そんな中、反差別界隈が目を付けたのは「差別をしている」と自ら認定する人間への攻撃である。とにかくネトウヨが活動意義を見出せず活動自体が盛り下がる中、反差別界隈はなかなか運動の成功が忘れられず、ターゲットを次々と見つけるようになる。それこそその対象は本来「反差別」の点で一致していたリベラル派の人間に対しても及んだ。ちなみにこの間に、大阪で「しばき隊リンチ事件」も発生している。これは2014年12月16日のことである。これについては後述する。

 本来はリベラルと言われる人間であろうとも、ネトウヨ認定をし、一斉に攻撃をしかけてきた件について、その象徴的な騒動が「女性器アート」で知られる漫画家・芸術家のろくでなし子にまつわるものだ。彼女が「マンボート」という自身の性器をモチーフにしたカヌーをクラウドファンディングで作ろうとした際、寄付をしてくれた人に自身の性器の3Dデータを特典として頒布することにした。クラウドファンディングは成立し、カヌーは完成したのだが、警視庁がわいせつ物頒布等の罪等で2014年7月に彼女を逮捕したのだ。さらに同年12月、作家・北原みのりの経営する女性向けアダルトグッズショップにて「デコまん」という性器をモチーフとした作品を展示したことからわいせつ物公然陳列の疑いで逮捕された。

 この時、ろくでなし子の支援に回ったのが反差別界隈も含めたリベラル陣営である。逮捕の理由も不可思議なものだし、表現の自由を守るためにもろくでなし子の逮捕は「不当逮捕」であるといった見方をしたのだ。結果的にろくでなし子は起訴され、裁判に突入。この段階ではろくでなし子は反差別界隈にとって「神輿」の一人だった。裁判費用のカンパも集まった。しかし、事態が急変したのが2015年11月の「ぱよぱよちーん」騒動だ。

 この騒動の発端は、はすみとしこという漫画家が描いたシリア難民を揶揄するイラストに端を発する。実在するシリアの少女をモチーフにイラスト化し、彼女が不敵に笑う背景の後ろにこうメッセージを書いた。

「安全に暮らしたい 清潔な暮らしを送りたい 美味しいものが食べたい 自由に遊びに行きたい おしゃれがしたい 贅沢がしたい なんの苦労もなく生きたいように生きていきたい 他人の金で。 そうだ難民しよう!」

 これが差別的だと批判が殺到したのだ。はすみは海外サイトstepFEEDが選ぶ「シリア難民に最悪のリアクションをした7人」にドナルド・トランプやFOXニュースとともに選出された。このイラストは、ジョナサン・ハイアムという写真家による写真を、はすみがトレースして作ったものだった。こんな使われ方をされたことにハイムはショックを受けたとツイート。また、はすみが恥知らずだと批判した。後にはすみはフェイスブックからこのイラストを削除した。

 そして、はすみのフェイスブックでこのイラストに「いいね!」を押した(ないしは他の方法での支持表明)人物約340人の名前・所属・出身校等フェイスブックに公開していたデータを反差別界隈の一人がリスト化した。これを「はすみリスト」と言う。そこにツイッターユーザー「反安倍 闇のあざらし隊」(以下「あざらし」)を名乗る反差別界隈の活動家がネットで晒すと宣言。これを「はすみしばきプロジェクト」という。その宣言通り、実際にその情報はウェブ上に公開された。

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン