【書評】『兵士に聞け 最終章』/杉山隆男・著/新潮社/1600円+税
【評者】関川夏央(作家)
杉山隆男が自衛隊の取材に着手したのは、自衛隊初の海外派遣、カンボジアPKOが実施された一九九二年十一月だった。九五年に『兵士に聞け』として刊行されたその本は、はじめて自衛官を職業としてとらえた記念碑的作品となった。
以来、『兵士を見よ』(九八年)、『兵士を追え』(二〇〇五年)、『兵士に告ぐ』(〇七年)、『「兵士」になれなかった三島由紀夫』(〇七年)、東北地方の津波・原発災害に出動した自衛隊をえがく『兵士は起つ 自衛隊史上最大の作戦』(一三年)を書いた。
杉山隆男の方法は徹頭徹尾変わらない。彼が遠ざけたのは「戦後」時代のマスコミや「知識人」に特徴的な「中学生なみの正義感」で国際情勢を「解釈」することだ。そのかわり、隊員の「囁き」や「つぶやき」といった「細部」をひたすら拾い集め、「まわりに漂う匂い」を記述しようとつとめた。それこそがまさに作家の仕事であった。
この間、著者はF15戦闘機、P-3C対潜哨戒機、潜水艦に乗り、レンジャー訓練を体験した。自衛隊は世界各地でPKOを実施し、国際緊急援助、ソマリア沿海での海賊対処など多くの任務をになった。国内では災害出動で国民の絶対的な信頼を得た。