今年でアーティスト活動45周年を迎える谷村新司(68)が、この4月、歌舞伎や文楽など伝統芸能の殿堂・国立劇場でリサイタルを行なった。谷村は、十数年前、実は意図的に生き方を変えた。
「忘れもしません、55歳のクリスマスの晩です。妻に言われたんです。『歌を創って、歌を届けて、旅をして……これだけがあなたの生き方じゃないのかもしれないわね』と。
妻は仕事のパートナーでもあり、公私にわたり僕を支えてくれていました。妻の言葉は、僕がそれまで考えもしなかったこと。とても衝撃的だったんですが、同時に『あっ、そうかも』と思ったんです」
谷村は、感じた瞬間に足を踏み出した。活動は全部白紙。ファンクラブを解散し、事務所も1年かけて閉じた。そして、何でもやれる。さあ何をしよう。そう思っていたところに、ある話が舞い込んだ。
「中国の上海音楽学院から教授にならないかという話が来たんです。『天命ってこういうことなんだな』と思いました。空っぽにしたから天が進むべき道を教えてくれたんだな、と。もしそれまで通りの活動をしていたら、断わらざるを得なかったでしょう」