歴史認識を巡って近隣諸国との諍いが絶えない。だが、それは今日に始まったことではない。昭和天皇の崩御を契機に、戦後日本の宿題が顕在化し始めた。同時期、国内政治では、55年体制の終焉という大きな節目を迎えている。田中角栄氏が亡くなり、55年体制が終焉した平成4~5年について、作家・佐藤優氏と慶應義塾大学法学部教授で思想史研究家の片山杜秀氏が語り合う。
片山:平成に入り、戦後日本が長らく抱えてきた問題が顕在化してきました。沖縄の基地問題や韓国の従軍慰安婦問題がそうです。そして今も、それは我々が向き合わねばならない課題として突き付けられている。
佐藤:韓国の大統領選で日韓合意の見直しを主張する文在寅氏が当選しました。そもそも日本政府が慰安婦問題で軍の関与を認めたのが平成4年のこと。翌年の河野談話で謝罪した。現在、保守派から問題視されている河野談話ですが、実は日本政府の一貫したスタンスを示しているに過ぎません。それは、関与はしたが補償はしないというものです。
片山:2015年の日韓合意で、戦後の日韓外交の積み重ねをすべてひっくり返してしまいましたけどね。
佐藤:そう。自社さ連立政権の村山内閣はアジア女性基金が集めた募金を元慰安婦に届けるという形をとった。でも日韓合意で拠出した元慰安婦支援の10億円は税金。これは日本の国家責任と補償を事実上認めたことを意味する。とすると次に韓国は徴用工問題を出してくるはずです。我々、外交に携わった人間からすると日韓合意は驚くべき政治決断ですよ。