映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、印象的な芝居をすることが多い役者・伊武雅刀が、今村昌平監督と相談して芝居をした思い出について語った言葉を紹介する。
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伊武雅刀は短い出演時間でも観る者に強烈なインパクトを残す芝居をすることが多い。1998年の今村昌平監督作品『カンゾー先生』での、料亭の女将に想いを寄せる軍人役も、そうだった。
「女将に惚れているのに全く相手にしてもらえない軍人でした。それで無理やりに関係を結ぼうとするのですが、彼女を押し倒した後でどう芝居をするか今村監督と相談しました。
今村監督は『鳥居をバックに着物をひっぱがして内股を触れ』とか言うので、僕は『それなら早漏という設定にするのはどうでしょう』と提案したら、『いいね』って。『ようするに、乗っかったはいいけど、すぐいっちゃうんだろう』『そうです』『いった後はどうするんだ』『その後は、いたたまれなくなって、窓か何かを開けて海でも見てごまかすんじゃないですか』『うん、いいね』──という感じで、芝居が決まっていきました。
今村監督、他の役者さんにはあまりそういう風には言わないのですが、僕には『お前、ここで何かやってみない?』というのは多かったですね。『正統派じゃないから、何かやらせても大丈夫』というようなお考えがあったのかもしれません。共演の松坂慶子さんには『伊武さん、監督に好かれていいわね』と言われたことがありましたが、面白いシーンを一緒に作っていこうという監督は僕にとってありがたいですね」
その一方で、NHK大河ドラマ『秀吉』の黒田官兵衛、『風林火山』の太原雪斎、NHK時代劇『雲霧仁左衛門』での「木鼠の吉五郎」など、時代劇では、抑えた芝居が必要になる参謀役に回ることも少なくない。