「今日は、最高! 上手くいった!」──公演を終え、屋外の喫煙所に出てきたイッセー尾形(65)は、晴れやかな顔でそう言った。身体と頭をフルに使い切ったあとの清々しさが全身に満ちている。一服しながら、イッセーが続ける。
「昔からそうですけど、演じる時間が延びることがバロメーター。それはお客さんと一緒に時間を楽しみ、舞台の上でいろんなものを発見しているということですから」
この日、イッセーは、北海道・釧路市民文化会館で、前日に引き続き「一人芝居~妄ソーセキ劇場 in 釧路」の舞台に立っていた。夏目漱石の小説を題材に、自身の解釈を加え、一人芝居に落とし込んだものだ。1時間30分を目安に作られたプログラムは、この日、1時間50分にまで延びていた。
1980年代前半に一人芝居を始めたイッセーは、映画やドラマなどの仕事をしながら、その後も切らすことなくこのオリジナル芸を磨き続けてきた。
イッセーはこれまで、バーテンダーに始まり、あらゆる現代の仕事人、市井の人々を取り上げ、自分のものとしてきた。人物のディテールにこだわり、いかにもいそうな近所のオバさんやフォークシンガーなどを造形してきたのだ。それが、いまなぜ、1世紀以上前の夏目漱石にたどり着いたのか。