米国の研究では、「治療するとQOLが下がる」という報告もある。2010年、米国の22の介護施設において、認知症が進行した高齢の肺炎患者225人の観察研究を行なったところ、「抗菌薬治療を受けなかった患者に比べて、抗菌薬治療を受けた患者はQOLが低く、入院した患者ではさらにQOLが低下していた」というのだ。
◆「肺炎は老人の友」である
「治療しない」ことのメリットについて、前出の寺本医師が言う。
「完治が難しい高齢患者が、痛みの解消を目的とした緩和ケアにシフトすれば、QOLは治療をするより上がる可能性はあります。
また、最終的に肺炎は苦しみがなくなるという学説もあります。呼吸状態が悪化すると血液中の酸素濃度が低下し、二酸化炭素濃度が上昇する。二酸化炭素には鎮静効果があり、このまま治療を施さなければ、次第に眠くなって意識が消失します。悪い状態が半日以上続くと、このような状態になります。意識がなくなれば痛みも感じることはなく、やがて眠るように死んでいくのです」
医学教育の基礎を築いたカナダの内科医、ウィリアム・オスラーは「肺炎は老人の友である」という言葉を残している。避け難い病気である以上、その付き合い方はもっと考慮すべきかもしれない。