柔和な笑顔をたたえる男性は、友寄英哲(ともよりひであき)さん(84才)。円周率4万桁暗唱に成功した元ギネス記録保持者で、ルービックキューブを目隠しで揃える競技の世界最高齢記録を持つ男性である。
友寄さんは27才から円周率暗唱を始め、54才で円周率4万桁暗唱に成功。1992年にソニーを定年退職した後も円周率5万桁を目指し、挑戦は続いた。72才の時にルービックキューブの面白さを知り、記憶力トレーニングに取り入れた。
「ある日、目隠しをしながらルービックキューブを完成させる少年がテレビに出ていたんです。感動しましてね。大会があることもわかり、挑戦してみよう、と。でも、試してみたら高齢者には非常に難しい競技だと気づきました。瞬間的な記憶力と極度の集中力が必要だからです。当時の世界最高齢記録保持者が63才のスウェーデン人というのも納得しました」(友寄さん)
日々キューブを回し、試行錯誤を繰り返しているうちに、ひとつのアイディアがひらめいた。キューブの各面に番号を振ると、解法の手順をすべて数字で表せたのだ。各面の色位置をすべて覚え、どこを何回転回せば元の位置に戻るか、脳内で完成までの手順を数式化して記憶する。それを基にキューブを回転させると、目隠しをしていても完成したのだという。
常人には不可能な領域だが、同方法で友寄さんは80才にして目隠しキューブの世界最高齢記録を達成。時間は25分4秒。83才で13分55秒と約半分に短縮し、昨年も自己記録を更新したという。
友寄さんの記憶力は、なぜかくも高い次元で保たれているのか。脳科学の最新研究では、頭を使う行為と運動を組み合わせた「デュアルタスク」を行うと、人間の脳の萎縮を抑え、記憶力を改善するとの知見がある。友寄さんの習慣である“ながら勉強”はまさにデュアルタスクそのものといえる。
友寄さん曰く、それ以上に重要なのが日常生活の「7K」にあるという。「興味」「競争」「緊迫感」「環境」「体」「心」「家事」の頭文字を取ったものだ。
彼は70才を過ぎてからルービックキューブに興味を持つほど好奇心が旺盛で、テレビは雑学系やクイズ番組を好んで視聴する。円周率やキューブの世界記録に挑むなど競争心も強く、対戦相手と競う囲碁や将棋といったゲームが大好き。「次の駅までに10桁覚える」など、時間の制限を作り、日常的に緊張感を持ってきた。
騒音がなく集中できる環境に加え、偏らない食生活と適度な運動で健康を維持。ストレスをためずリラックスし、料理、洗濯など率先して家事をこなして脳を活性化させる。