エアバッグ不良による膨大なリコールのすえ、法的整理に踏み切らざるを得なくなった、いわゆる“タカタ問題”。異常破裂で死者を出したことは重い十字架と言うしかないが、そのタカタ製エアバッグも、それを原因とする死亡例とは比べ物にならないくらい多くの人命を救ってきたのも事実だ。
そもそもエアバッグというのはどのように乗員を保護しているのだろうか。
ステアリングや助手席のダッシュボードなど、さまざまな部分に風船が仕込まれ、クルマの衝突をセンサーが検知したらインフレーター(ガス発生装置)が作動。一気に展開して乗員の体を受け止める──ということは容易にイメージできるであろう。
だが、事故の状況は千差万別で、人間の動きも複雑怪奇。それを克服して人命を守るべく、エアバッグは日進月歩を続けている。
◆エアバッグがあれば安心なのか?
今や、クルマの安全性向上にはなくてはならない存在となったエアバッグだが、エアバッグがあれば安全というわけではない。エアバッグは正式には「SRSエアバッグ」と呼ばれる。SRSとは、補助拘束システム(Supplemental Restraint System)の略だ。補助と名がつく以上、主役もあるということ。その主役は言うまでもなくシートベルトである。
現代ではエアバッグ=補助が常識となっているが、実はエアバッグ実用化の強烈なモチベーションになったのは、シートベルトに代わるメインの拘束システムを作りたいという目的だった。
1970年代初頭、アメリカ政府が交通死亡事故のあまりの多さに、速度制限を厳格化するとともにシートベルト装着を義務化しようとした。が、日本でシートベルト装着が義務化されたときと同様、当初はシートベルトを嫌がるドライバーが多かった。そのニーズに米ビッグスリーは、エアバッグで応えようとしたのだった。
結果は散々。乗員を四方八方からエアバッグが保護するという壮大なシステムであったため価格はきわめて高いものになった。それでいて効果は限定的で、とてもメインの安全装置にはならなかった。
それに対し、今度はドイツのダイムラー・ベンツがエアバッグを事故時にハンドルに頭を打ち付けないための補助システムとして採用。シートベルトと併用すると死傷率を劇的に軽減できることがわかり、そこを起点に世界にこの技術が広まっていった。
現代はさまざまなエアバッグが実用化されているが、乗員用のものは前席、後席ともシートベルトを着用していないと効果はほとんど見込めない。