「家とはある種、身体の延長で、屋根や壁は人を風雨や寒さから守ってくれる。私たちが失ってしまった動物的な能力や感性を肩代わりしてくれているんでしょうね。だから、ときにはその防御を捨てて開放的な空間でセックスや食事をすると、刺激的なわけです。
でも家は脆いものであるのを、私たちは震災で知ってしまった。だからやっぱり一番頼るべきものは人間の身体なんです。五感を研ぎ澄まして、登場人物たちの体験をなぞりながら、内に眠る感覚を呼び覚ましていただけると嬉しいです」
小説も当然、二次元だが、本書の物語は明らかな空間を思わせ、そこに立ちのぼる匂いや音、肌と肌が触れる感触までも感じ取る贅沢な体験は、虚構でありながらおそらくリアルの上をゆく。
【プロフィール】おおたけ・あきこ:1950年東京都生まれ。上智大学文学部卒。NY滞在中の1979年より写真と執筆を開始。小説家、エッセイスト、写真評論、映画評等幅広く活躍。2007年よりトーク&朗読会「カタリココ」主催。東日本大震災直後からは「ことばのポトラック」も毎年開催。小説『随時見学可』『図鑑少年』『ソキョートーキョー』の他、『彼らが写真を手にした切実さを―《日本写真》の50年』『日和下駄とスニーカー』、写真集『ニューヨーク1980』等。161cm、A型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2017年7月7日号